「少しの手間をかけて、ちょっと高いくらいの米なら作らない方がいいよ。」そう言ったマサシロの社長、政城裕明さんの言葉には説得力がある。40年以上の米づくりに携わってきた経験から、これからはただ収量を上げるだけはない、作り手側に楽しみがある米づくりをしたいと考えた。ひと言でいえば、超高級米。もちろん、ただ値段が高いだけではない。生産段階から出荷まで徹底的に手間をかける。できた米の食味、品質が最高レベルであることはもちろん、パッケージやその他の販促物をそれに見合ったものにすることにも余念がない。
この「四八米(しはちまい)こしひかり 酵素プレミアム」の栽培は、種の選別から始まる。その自家採取の種は、まく日に合わせて浸種させ、温度管理をしながら苗に育てる。この育苗の過程から酵素を与える。
田植えは、毎年5月。苗と苗の間隔や深さによっても育成状態に差が出てしまうため、田のある場所や地形などに合わせて慎重に判断しながら植えていく。そして9月に黄金色の穂を実らせ、刈取りするまでの3~4ヶ月、毎日の細やかな管理が欠かせない。この期間にも酵素を与えるという酵素栽培にはこれまでも取り組んできた。今年はこの酵素の効果をさらに発揮させることができるのでは?と考えて、ある物質を噴霧してみることにしたという。これが「プレミアム」の所以だ。
同社で使用している酵素とは、広島県発の万田酵素である。酒造りの技法を生かして植物性の素材を長期発酵、熟成させて作られたもの。継続し取り組んできたことで、酵素栽培にはそれなりの成果を上げてきた。しかし地球全体の環境の変化もあり、イネにはどうしても不純物が付着してしまうのだという。そのため酵素を噴霧する際に、浄化作用のある物質を混ぜてみることにした。
この物質と酵素との相乗効果については、これから検証していくところだが、「触媒」とも呼ばれるこの物質は、業務用厨房に設置が義務付けられているグリストラップ(油脂分離阻集器)を浄化する作用や住宅のシックハウス対策、切り花や食材の鮮度保持など、様々な効果が認められており、農業分野でも多数の活用例が報告されている。
農薬は一部の消費者にはひどく悪者扱いされているが、特に梅雨期からの高温多湿な気候をもつ日本では、雑草や害虫、病原体となる微生物の活動が盛んになるので、イネも病気になりやすい。作り手もできれば使いたくないが、無農薬の実現は簡単ではない。でもこのプレミアムの栽培方法が成果を上げてくれば、いつかは無農薬の米ができるかもしれない、政城さんはそんな期待を寄せている。
「四八米」の名の由来は、同社の位置する標高480mから。米づくりに適した標高は430m以上500m以内で、上下町はこれにばっちり、当てはまる。また大量な水を必要とするイネは、田に十分な水が引けること、且つ栄養分を含んだ新鮮な水が根からしっかり吸収されるためには、水はけが良いことも絶対条件となる。水害などで流された草木が腐植となり、長い年月をかけて堆積した土に適度に石が混じっているという上下町特有の土壌は、まさにその条件を満たしている。
この上下町は土壌環境、気候条件はおいしい米を作るのは最適だ。政城さんは、この環境を守ることも怠らない。田の周囲の樹木を適宜伐採するなどの活動をし、上下町の農地見守り隊となること、それが今の自分の役目だと語った。
文/平山友美
料理/平山友美(「3口で食べられるおにぎり!」これが最高の味わい方。)